薄明

ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
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愛が重い

 伏黒に妬いてほしい。そういう年頃なのである。
 出会ってからそれなりに経ってから付き合ったものだから、念願叶って付き合った頃には嫉妬するなんて時期はとっくに過ぎ去っていた。いや、過ぎ去っていたのは伏黒だけで五条は内心すぐに妬いているのだが、とにかく伏黒は五条が外でナンパされていようが可愛い補助監督と1週間付きっきりで任務に行こうが顔色ひとつ変えない。そりゃあ変な誤解からの一悶着がないに越したことはない。越したことはないが、伏黒のそういう独占欲が欲しいのだった。
「というわけで、恵はヤキモチ妬かないんですか」
「何がというわけなんですか」
 高専近くにある寂れたカフェ。遠出する時間は無いが、たまの休みに家に篭って終わらせるのも勿体ない。そんな時によく2人で行くここは、いつ来ても他の客がいない。出される珈琲の味も昔ながらのホットケーキの味も悪くは無いのだが、不思議なことに誰も来ないのだ。さらに店主は注文したものを持ってきたらカウンターの奥に引っ込んでしまうのもあって、ここは伏黒と五条にとってちょっとした定番のデート場所のようになっていた。
 そこでいつも頼む珈琲に砂糖を落としながらそう切り出せば、伏黒はさして気にした風もなくブラックのままの珈琲を啜った。
「ちょっとくらいは、何よこの女ー!とかなんないの?」
「俺を何だと思ってんですか。なりませんよ」
「俺の先生に触らないで!とかならない?」
「なりません」
「…僕は女の子が恵のこと視線で追ってるだけで妬けるよ」
「俺じゃなくて五条さんを見てるんですよ、あれは」
 つれない態度に口を尖らせた五条を見て、伏黒は小さく溜息を吐き出した。視線をコーヒーカップに落として、少しの間無言になる。
 時間がゆったりと流れるここでは、伏黒の無言がひどく長く感じられた。実際はほんの数秒、数十秒だったのかもしれないが五条が思わず口を開いた時だった。
「めぐ、」
「本当は、あんたが今持ってるコーヒーカップ」
 視線を持ち上げた伏黒が、じっと五条の手元を見つめる。
「これから口を付けてもらえるんだなと思うと妬けますよ」
「…へ?」
 手元に注がれていた視線が今度はまっすぐ五条へと向く。その時にかち合った伏黒の瞳ときたら!
「これから飲まれる珈琲だとか溶かされた砂糖だとか、かけてるサングラスとか、糧になるもの触れてるものみんな羨ましいなって思いますよ」
 背筋に冷たいものが流れて、けれど心臓が喜ぶようにきゅうと縮こまる。これは伏黒からの熱い告白だ。そう思うと五条が無理に引き出してしまったこの重たい言葉が急に可愛らしいものへと変わる。今この瞬間も、きっと伏黒は五条の吸い込む酸素にすら妬ましさを感じているのかと思うと、なんと熱烈なことか。
「…やーばい、惚れ直しちゃいそう」
「はいはい。顔、だらしないですよ」

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