薄明

ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
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2020年12月15日、遠い国の空にて
柊英です


 “寒空の夜に舞い降りた天使におはようを告げ、キスを贈る。”なんとも歯が浮いてしまいそうな甘い言葉だが、これを和泉柊羽が言うと様になるのだから我らがリーダーは凄いのだ。しかもそれを歌にして、その歌の1番初めに持ってきてしまうのだから尚のこと凄い。前述したワンフレーズは結局後半部分がカットされて歌に乗せられたわけだが、柊羽曰く「ちょっとあからさま過ぎるから泣く泣く削った」らしい。そんなことをしなくたって、きっと分かる人には分かってしまうと思うのだが、敢えてそこは深追いしないでおこうと思う。柊羽も誰も何も言わないが、この歌は英知の誕生を祝う歌に違いないのだから。
「その歌」
「ん?」
「気に入ってくれているんだな」
 小さく口ずさめば柊羽が日食グラスを片手に擽ったそうに笑った。やることは大胆な割に、柊羽は意外と自分が作ったものを身内に褒められるのが気恥しいらしい。ここ数年で知ったことなのだけど。
「そりゃそうだよ。だって」
「…だって?」
 柊羽が目を細めて英知を見る。
「ふふ、これ、俺が言っちゃっていいのかな。自意識過剰ってなっちゃわない?」
「さぁ?」
「今日はちょっといじわるな柊羽だ」
 柊羽も誰も何も言わないし、英知だって敢えて口には出さないけれど、わざとらしく肩を竦める柊羽が答えだ。
 英知の周りにいるたくさんの人達がざわつき出す。ぱっと見ただけで今日のために集まった観光客は誰も彼も色々な国の人なのだと分かる。ここは日本じゃあない。
 みんな手に持った日食グラスを目の前に掲げて空を見上げ始めた。どうやらそろそろらしい。壱星と壱流にも見せたかったなと思わないでもないのだけど、今日ここに来るのは柊羽の2年越しの我儘であったし、なによりこのことを告げた時の壱星も壱流も「今年くらい2人で旅行してこい」なんてあっさりした返事だった。英知が知らない間に二人ともすっかり大人になって、すっかり物分りがよくなって、柊羽と英知のことをよく理解してくれるようになった。嬉しいけれど少し寂しい、なんて言ったらきっと親バカなんて笑われてしまうのだろうけれど。
 周りがざわつき出し、もう始まったのだと察する。周りにならって日食グラスを掲げて空を見あげれば、光を遮るレンズによって真っ黒になった空に太陽がぽつりといた。そこにゆっくりと黒い月が重なっていく。もう柊羽と英知の間に会話はなかった。
 徐々に月が重なっていき、空に浮かぶのは細く丸い、光の輪だけになった。数瞬でその輪は小さな宝石を付ける。何かと柊羽の歌を浮かべてしまうのはもう癖のようなものなのだ。そこにある柊羽の想いを知っているから、だからこそ。夢の中で交わした太陽の指輪、それが今英知の目の前にあった。
「…柊羽」
 ここにいるのはどこの国の誰なのかも分からない、きっとここにいる英知と柊羽が日本じゃ歌って踊ってカメラの前で笑顔を飛ばしていることなんて知りもしない人達ばかりだ。もしかしたら知ってる人もいるのかもしれないけれど、誰も英知と柊羽を見てなんかいやしない。ここは確かに現実で、確かに2人だけの小さな離れだった。
 空から目を離さなくたって柊羽の手がどこにあるのか分かる。それだけの付き合いなのだ。見つけた柊羽の手に自分の手を重ねて、手探りで細い薬指を見つける。そこには何もないけれど、確かに柊羽と英知が歌い上げた指輪があった。
「どうしよう、こんなに嬉しい誕生日プレゼントはじめてだ」
 柊羽はされるがままに薬指を差し出している。それに甘えて指を撫でながら、この後のことを思い浮かべる。この日食が終わってホテルに戻って、眠って朝を迎えればもう指輪はないけれど。だからこそ、唯一無二の贈り物なのだ。
「ならよかった」
 どこか安心したように息を吐いて、柊羽が英知の掲げていた日食グラスを取り上げる。もう空に指輪はなかった。
「…泣きそうじゃないか」
「そりゃ、そうだよ。だって感動、した」
「はは、泣いてもいいんだぞ」
「ホテルに戻ったらね」
 一頻り泣いて朝を迎えれば、きっと英知の携帯には山のようなメッセージが送られているのだろう。こんなに恵まれて、幸せばっかりの誕生日は初めてだ。
「少し早いが、誕生日おめでとう、英知」
「…ん、ありがとう。柊羽」
 
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