薄明

ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
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名前だけの星

 都会の空に星が少ない、とはよく言う話だ。実際任務でどこぞの田舎に行った時は都内よりずっと星明かりが見えた気がした。空も広く感じたのは背の高い建物が少ない他にもこうして星々がよく見えるのもあるのだろう。
 星座の名前なんて小さい時に津美紀が言っていたものしか分からない。ましてや空のどこにあるのかなんて当然分かるわけがなかった。実物は知らずに名前だけを知識として頭の片隅に置きながら空を見上げれば、やはりどこに何があるのかさっぱり分からなかった。
「恵、鼻真っ赤」
「…あんたがさぼってるから」
 人通りの少ない深夜の住宅街。星がすっかり人工的な光に押されて姿を隠してしまったお陰で、伏黒と五条を照らすのは味気ない街路灯だけだ。頭上からは白熱灯に近寄っては縋る虫の羽音がする。
 冬の夜はひどく寒い。五条が任務をこなした伏黒をたった5分待たせるだけでポケットに突っ込んでいる手は冷えきっているし、鼻の頭だけじゃなくて頬だって真っ赤になっているだろう。
「生徒をほったらかしてスイーツ買いに行ってていいんですか。引率でしょう」
「このくらい1人でも問題ないでしょ。恵のこと信頼して任せてるんじゃん」
「そのうち学長に本気で叱られますよ」
 伏黒の言葉にくつくつと五条が笑った。手に持っていた見るからに高そうな店の紙袋が僅かに音を立てる。暗に「チクらない癖に」なんて言っているのだ。
「叱られるのは嫌だなぁ」
 思ってもないことを言う。
 紙袋を持っていない方の手が伸びてきて伏黒の腕を掴んだ。そのまま五条の方へと無理矢理引かれて、ポケットから手のひらが飛び出した。爪先がきんと冷えて、代わりに唇にじゅわりと熱が乗る。
「……ここ、どこだと思ってるんですか」
「これで内緒にしてくれる?」
 伏黒の問いには答えずに許されることを分かっていて許しを乞う。はぁ、と伏黒は溜息を吐き出した。
 安い賄賂だ。キスひとつ、雰囲気にしたって都会の空は星が足りなくて風情が足りない。街路灯に集まる羽虫達が呆れたように飛び回っては白熱灯にぶつかっていく。そんな耳に入る音すら、俗っぽい。何もかもが安い。
「…どうせ俺の分もあるんでしょう。それ。仕方ないから買われてあげますよ」
「よく分かってんじゃん」
 手に持っていた紙袋を指させば無事に許された事に五条が笑う。
 そうして五条に腕を引かれて街路灯の下から抜け出して、つい今しがたの悪事から逃げる。しかしこんな悪事、どうせ見ているのはそのうち白熱灯に焼かれて死ぬ名前も知らない羽虫と、名前しか知らないどこにあるかも分からない星だけだった。

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