薄明

ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
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見えないルージュの誘惑
柊英です


「…やっぱ逆じゃない?」
「そうか?」
 至極不思議そうに首を僅かに傾げてみせた柊羽は、たとえシーツに押し倒されていようが様になっていた。好きな人をベッドに押し倒しているのだ。男として大層燃え上がる瞬間だろうに、悲しいかな立場が逆転している方が英知の頭ではしっくりきてしまった。慣れとはかくも恐ろしい。
「俺としてはなかなか眼福なんだが」
「いや、それは俺もそうだけど…」
 肘で体を支えながら柊羽の顔を挟んでいるため、随分と距離が近い。いつだかに流行った壁ドン、とは違うが擬似的にそれを体験しているような気持ちになる。
 そもそも何故こんなことになっているのか、現実逃避がてらちょっと振り返ってみれば英知が受け取ったCMの概要が事の始まりだった。
 女性向けの化粧品のCM。真っ赤なルージュを引いた女優を英知がベッドに押し倒し、唇に手を伸ばす。彼女と英知の唇が近づき、アップになり、触れる直前でカメラは止まり、商品名と宣伝文句が流れる。そんな大人な雰囲気が色濃いもの。
 本音を言ってしまえば、自分より柊羽が適任だろうと思わないでもないが、先方は英知がいいと言うのだ。当然やらない出来ないなんて答えはなく、受け取った概要を見ながら自分にこれがこなせるだろうかと考えていたところに、柊羽の奔放な好奇心が飛び出した。「英知に押し倒されたことがないな、そういえば」だなんて。
「…てか、実際どう?俺に押し倒されてみて」
「悪くないな。…だからもう少しだけ、この距離でいたい」
「そう言われちゃうとなぁ」
 柊羽が小さく笑う。
「断れないだろう?」
「よくご存知で。……?」
 不意に柊羽の指が英知の口元へと伸ばされる。かさついた表面をなぞる指をそのままに、言葉を待てば少しだけ眉を下げて柊羽は言った。
「だが、俺以外の人間がこのアングルで英知を見るのかと思うと、少し妬けるな」
「……今言う?」
「っはは、嬉しいリアクションだ」

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