薄明
ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
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のおめぐ視点。死ネタ
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「悟くん、出張終わったって!」
ぴろん、と軽い通知の音が恵の背後で聞こえて、それから直ぐに津美紀の弾んだ声がした。どうやら通知が鳴ったのは津美紀の携帯らしい。湯が沸いたやかんの中身を急須に移しながら「へぇ」と気のない返事をする。
何かと忙しくあちらこちらに飛び回っている五条は、今日も今日とてどこかに出張として飛んでいた。どんな仕事をしているのかは教えてくれないが、帰ってくる度にちゃんと五条自身の分も含めた3人分の土産を持ってくる。ちゃんと五条の家はあるのだろうけれど、出張が終われば1番に津美紀と恵の元へと帰ってくるのだ。
「…いや、」
お茶の色が出るのを待ちながらふと1週間ほど前のやり取りを思い出す。行ってくるねと言った五条が伝えてくれた帰宅予定は明後日だった筈。今回は早めに切り上げるの難しいかも、とまで言っていた。
津美紀の方を振り返って「明後日じゃなかったか」そう言いかけたところで窓の外から声がした。噂をすればなんとやら、というやつだ。
「津美紀ー!恵ー!」
「ふふ、帰ってきたよ」
まるで全てを知っていたかのように小さく笑った津美紀は窓をちらりと見た。台所にいる恵からは見えないが、間違いなく五条がいて、近所迷惑も考えずに2人を呼んでいる。わざわざ見に行かなくても分かる。土産の入った袋を下げて大きく手を振っているのだ。ちゃんとここにいるのだと伝えるように。
「…近所迷惑だろ」
ぶっきらぼうに言いながらも2つしか用意してなかった湯呑みをもう1つ出すのだから行動は素直だ。そんな恵を見て歩み寄ってきた津美紀が急須を取り上げる。
「悟くんね、早く恵に会いたくて頑張ったんだよ」
少しだけ濃いめに出てしまったお茶を注ぎながら津美紀の目が言う。だから早く顔を見せてあげて、と。未だに窓の外では五条が津美紀と恵を呼んでいた。
変な気を遣う五条はいつも津美紀から先に名前を呼ぶ。恵だけが特別になり過ぎないようにと。その少しズレた気遣いが擽ったくて、好きだった。
仕方ないな、そう口の中で転がして窓を開け放した。窓の外にはすっかり錆び付いていつか取れてしまいそうな手すりがある。そこに体重を乗せすぎないように軽く手を乗せて、窓に片手を添えて身を乗り出した。
案の定そこには五条がいて、恵の顔を見るなり柔らかく瞳を細めた。そのあんまりにも嬉しそうな顔ときたら。
きっとこれも近所迷惑だけど、言わずにはいられなかった。ちゃんと五条に聞こえるようにと。
「おかえりなさい!」
五条の頬が緩んで、無邪気に笑う。
「ただいま!」
霞んでいく視界にはもう星の煌めきすら見えなかった。指先から感覚がなくなって、地面に触れている背中も鈍っていく。
「……夢か、」
一瞬途切れた意識の中で見た夢は、夢らしくちぐはぐだった。走馬灯とも呼べない、ありもしない記憶だ。何故か目覚めている姉に、何故か暮らしているあの頃と変わらないおんぼろの六畳一間、そこに帰ってくる五条。呪いだなんて知りもしないような、ありもしないような、存在しない世界。
近くで玉犬が寂しそうに泣いていた。目立った外傷は無い筈なのに動けもしないし死期が迫っているということは、なにか目に見えない呪いか毒のようなものでも貰ってしまったのかもしれない。
情けない、そう口にしようとして、けれどもう身体はそれすら発せなくなっていた。走馬灯も幻も見ずに死ぬものだと思っていたから思っていたより猶予があって困る。後悔だとか、願いだとか、そんなものが頭を過ぎるのだ。
最期に小さく息を吸い込んで、想う。
あの日の一世一代の告白をどうか覚えていますように。
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2023.09.07 13:29:07
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薬指のおめぐ視点。死ネタ
「悟くん、出張終わったって!」
ぴろん、と軽い通知の音が恵の背後で聞こえて、それから直ぐに津美紀の弾んだ声がした。どうやら通知が鳴ったのは津美紀の携帯らしい。湯が沸いたやかんの中身を急須に移しながら「へぇ」と気のない返事をする。
何かと忙しくあちらこちらに飛び回っている五条は、今日も今日とてどこかに出張として飛んでいた。どんな仕事をしているのかは教えてくれないが、帰ってくる度にちゃんと五条自身の分も含めた3人分の土産を持ってくる。ちゃんと五条の家はあるのだろうけれど、出張が終われば1番に津美紀と恵の元へと帰ってくるのだ。
「…いや、」
お茶の色が出るのを待ちながらふと1週間ほど前のやり取りを思い出す。行ってくるねと言った五条が伝えてくれた帰宅予定は明後日だった筈。今回は早めに切り上げるの難しいかも、とまで言っていた。
津美紀の方を振り返って「明後日じゃなかったか」そう言いかけたところで窓の外から声がした。噂をすればなんとやら、というやつだ。
「津美紀ー!恵ー!」
「ふふ、帰ってきたよ」
まるで全てを知っていたかのように小さく笑った津美紀は窓をちらりと見た。台所にいる恵からは見えないが、間違いなく五条がいて、近所迷惑も考えずに2人を呼んでいる。わざわざ見に行かなくても分かる。土産の入った袋を下げて大きく手を振っているのだ。ちゃんとここにいるのだと伝えるように。
「…近所迷惑だろ」
ぶっきらぼうに言いながらも2つしか用意してなかった湯呑みをもう1つ出すのだから行動は素直だ。そんな恵を見て歩み寄ってきた津美紀が急須を取り上げる。
「悟くんね、早く恵に会いたくて頑張ったんだよ」
少しだけ濃いめに出てしまったお茶を注ぎながら津美紀の目が言う。だから早く顔を見せてあげて、と。未だに窓の外では五条が津美紀と恵を呼んでいた。
変な気を遣う五条はいつも津美紀から先に名前を呼ぶ。恵だけが特別になり過ぎないようにと。その少しズレた気遣いが擽ったくて、好きだった。
仕方ないな、そう口の中で転がして窓を開け放した。窓の外にはすっかり錆び付いていつか取れてしまいそうな手すりがある。そこに体重を乗せすぎないように軽く手を乗せて、窓に片手を添えて身を乗り出した。
案の定そこには五条がいて、恵の顔を見るなり柔らかく瞳を細めた。そのあんまりにも嬉しそうな顔ときたら。
きっとこれも近所迷惑だけど、言わずにはいられなかった。ちゃんと五条に聞こえるようにと。
「おかえりなさい!」
五条の頬が緩んで、無邪気に笑う。
「ただいま!」
霞んでいく視界にはもう星の煌めきすら見えなかった。指先から感覚がなくなって、地面に触れている背中も鈍っていく。
「……夢か、」
一瞬途切れた意識の中で見た夢は、夢らしくちぐはぐだった。走馬灯とも呼べない、ありもしない記憶だ。何故か目覚めている姉に、何故か暮らしているあの頃と変わらないおんぼろの六畳一間、そこに帰ってくる五条。呪いだなんて知りもしないような、ありもしないような、存在しない世界。
近くで玉犬が寂しそうに泣いていた。目立った外傷は無い筈なのに動けもしないし死期が迫っているということは、なにか目に見えない呪いか毒のようなものでも貰ってしまったのかもしれない。
情けない、そう口にしようとして、けれどもう身体はそれすら発せなくなっていた。走馬灯も幻も見ずに死ぬものだと思っていたから思っていたより猶予があって困る。後悔だとか、願いだとか、そんなものが頭を過ぎるのだ。
最期に小さく息を吸い込んで、想う。
あの日の一世一代の告白をどうか覚えていますように。
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