薄明

ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
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逢いたい

 お偉いさんの嫌がらせなのか何なのか、おそらく十中八九嫌がらせであろうが出張中にまた次の任務が押し付けられて高専に帰れない日が3週間程続いていた。出張先から次の出張先への移動時間に報告書を書いてはメールで送り付け、現場ではそう時間もかけずに始末してはまた次へ。呪霊を祓うよりは移動時間の多さに疲労が溜まっていく。とにもかくにも、あちらこちらへと飛ばされながら今日も五条は任務先の旅館で電話をしていた。
『帰りはいつになりそうなんですか?』
「明後日には一区切りと思いたい」
『こんな長い出張久しぶりですね』
 電話口で伏黒が吐息だけで笑ったのが分かった。
 基本的に祓うことに時間がかかる事なんて滅多にない。時間がかかるとしたら探し出す方で、それでもたかが知れている。1週間の出張予定があれば移動時間と観光を含めても最短で5日もあれば帰って来れるのが常だった。お互いの都合が合わずに顔を合わせられない日が何日も続くのなんて今までに何度もあった。1週間以上あったこともある。しかし何度あっても伏黒が近くにいない寂しさに慣れることはなかった。
「恵に会いたい」
 胸の内を隠すことなく吐き出せば、電話の向こうで『仕方ないじゃないですか』と窘められる。じゃあ恵は寂しくないの、とからかってもよかったが続く仕事の肉体的な疲れと精神的な疲れでそんな気にはなれなかった。
 どうせ向こうの金なんだからと取った伏黒1人では泊まれないような旅館。五条なら簡単に連れてこられるここに伏黒がいたら少しは楽しく仕事が出来るのに。昼間なら景色がいい筈の窓の外は、夜闇ですっかり何も見えなかった。
「僕お仕事頑張るからさ、帰れたら甘やかしてよ」
『いつも甘えてるじゃないですか』
「いつもよりもっと」
 駄々っ子みたいに言い募れば、溜息が電波越しに届く。いつ途切れるのか分からないことが余計に心を疲れさせる。伏黒に出会ってからすっかり五条は弱くなってしまった。寂しくてしょっちゅう電話して、会いたくて窓の外を眺めたりして、甘えたくて駄々をこねる。そんな子供みたいな恋愛をする歳でもないのに。
『…じゃあ、甘やかすんで、よそ見しないでくださいね』
 少しの間を開けて伏黒が言う。今、どんな顔をしてこれを言った?と五条の頭の中で駆け巡るが当然答えなどあるはずも無く。
 よそ見なんてするわけがないのに。道中にも、人にも、何にも。
「っ、恵、顔見せて!ビデオ通話しよ!」
『嫌ですよ』
 慌ててスマートフォンを操作しようとするが、それを待たずに五条の返事も待たずに通話が切られる。もう一度かけ直しても繋がることは無かった。今が深夜とはいえ寝たわけでもなかろうに。
一体今、どんな顔をして五条とさっきまで繋がっていた携帯電話を見つめているのだろうか。
「………はぁーーー……ほんと…」
 可愛くて困る。そう飛び出そうになった言葉はどうしても緩む口を抑える為に覆った手のひらに吸い込まれた。

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