薄明
ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
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純ココア飲んだことない。今度飲みたい
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「なに、それ」
「ココア。練ってんの」
「…練る…?」
小学校から帰宅するなり恵は五条の手元を指さした。五条が勝手に上がり込むのもすっかり慣れたもので、苦言のひとつももう出てこない。恵と一緒に帰ってきた津美紀が「甘い匂いがする!」と五条の元へやってきてカップの中身を覗いた。
五条が持つカップの中では湯煎で溶かしたチョコレートのようになったココアが延々と混ぜ、練られている。そこから漂う甘ったるい香りが狭い部屋の中に満ちていて、子供のくせに甘いものが苦手な恵はちょっとだけ口を尖らせて五条の向かいに座った。
「それするとなんか変わんの?」
「めちゃくちゃ美味くなるよ。飲んでみる?」
十分練ったココアに温めた牛乳を注いでいく。規定量を軽く超えた粉に牛乳で作る濃いめのココアが美味しいのだ。甘くて、暖まって、なんだかほっとする優しい味で。
「別にいい」
「私飲みたいな」
「津美紀は素直だね〜」
頭をひと撫でしてからマグカップを手渡す。暖かいマグカップを小学生の小さな両手で包んだ津美紀は、1口飲んで口元を綻ばせた。瞳はきらきらと輝いて、こんな美味しいもの初めて飲んだ!なんて顔で五条の方を見る。
「すっごく美味しい!」
「でしょ〜。やっぱ冬はこれだよね」
実際、この子達はこんなに粉を好きなだけ入れたちょっと贅沢なココアなんて飲んだことが無いのだろう。そんなものを知る前に大人が目の前からいなくなってしまったのだ。ちょっとの贅沢だって出来なかったはずだ。
全部飲んでいいよ、と津美紀に伝えてからランドセルの中身を片付け始めている恵に声を掛ける。
「今度甘くないやつ買ってくるからさ、恵はそっちで飲もうよ。マジで美味いから」
「…いらない」
「絶対持ってくるから、絶対飲もう。ね、津美紀」
「うん。これ、すごく美味しいよ」
恵はいつだって五条が言えば突っぱねるくせに、津美紀が乗っかれば尖らせた口をもごもごとさせて小さな声で「勝手にすればいい」と返すのだ。それは今回も同じことで、視線をうろちょろさせた後に「好きにすれば」と小さな声で返した。それに津美紀と一緒に笑えば、恵はますます口を尖らせて腑に落ちない顔をするのだった。
――
微かに懐かしい香りがして五条は瞼を持ち上げた。窓から朝日が差し込んでいるが、部屋に満ちている空気がきんと冷えていて随分と早い時間なのだと知る。1度あくびを零してから布団の中で寝返りをうち、そこで恵の姿がないことにも気付く。昨夜は早い時間から一緒に布団に潜り込んで寝てしまったはずだ。冬場は人の温度が気持ちよくてよく眠れるし、それもあって恵も素直に一緒の布団に入ってくれるのだ。
渋々布団から抜け出し冷たいフローリングに足を下ろす。途端に頭がしゃっきりして、香りの正体に気付く。おそらく恵がいるであろう方向、キッチンの方へと五条は足を進めた。
「早いですね」
「恵こそ…てか珍しいじゃん」
「たまに飲みたくなるんですよ」
そう返す恵の手にはマグカップがあり、話しながらもスプーンをぐるぐるとカップの中で回し続けている。傍らには純ココアが置かれていて、ケトルの中ではお湯が湧いていた。
「それ苦くない?」
「だから美味いんですよ」
お湯で作る純ココアは五条には苦すぎて好みではなかったが、昔から恵はこれしか飲まなかった。五条が小さい恵に買ってきた日からずっと。恵の部屋にも五条の部屋にも冬になると甘いココアと苦い純ココアの袋が並ぶ。
「顔洗ってきてください。その間に用意しとくんで」
「超山盛り3杯ね」
「太りますよ」
言いながらも五条の言う通りの分量でマグカップに用意してくれるのだ。そして昔と変わらず、揃ってココアを練りながら下らない話をする。昔から変わらない、冬になると時折ある冬のワンシーンだった。
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2023.10.20 01:35:07
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純ココア飲んだことない。今度飲みたい
「なに、それ」
「ココア。練ってんの」
「…練る…?」
小学校から帰宅するなり恵は五条の手元を指さした。五条が勝手に上がり込むのもすっかり慣れたもので、苦言のひとつももう出てこない。恵と一緒に帰ってきた津美紀が「甘い匂いがする!」と五条の元へやってきてカップの中身を覗いた。
五条が持つカップの中では湯煎で溶かしたチョコレートのようになったココアが延々と混ぜ、練られている。そこから漂う甘ったるい香りが狭い部屋の中に満ちていて、子供のくせに甘いものが苦手な恵はちょっとだけ口を尖らせて五条の向かいに座った。
「それするとなんか変わんの?」
「めちゃくちゃ美味くなるよ。飲んでみる?」
十分練ったココアに温めた牛乳を注いでいく。規定量を軽く超えた粉に牛乳で作る濃いめのココアが美味しいのだ。甘くて、暖まって、なんだかほっとする優しい味で。
「別にいい」
「私飲みたいな」
「津美紀は素直だね〜」
頭をひと撫でしてからマグカップを手渡す。暖かいマグカップを小学生の小さな両手で包んだ津美紀は、1口飲んで口元を綻ばせた。瞳はきらきらと輝いて、こんな美味しいもの初めて飲んだ!なんて顔で五条の方を見る。
「すっごく美味しい!」
「でしょ〜。やっぱ冬はこれだよね」
実際、この子達はこんなに粉を好きなだけ入れたちょっと贅沢なココアなんて飲んだことが無いのだろう。そんなものを知る前に大人が目の前からいなくなってしまったのだ。ちょっとの贅沢だって出来なかったはずだ。
全部飲んでいいよ、と津美紀に伝えてからランドセルの中身を片付け始めている恵に声を掛ける。
「今度甘くないやつ買ってくるからさ、恵はそっちで飲もうよ。マジで美味いから」
「…いらない」
「絶対持ってくるから、絶対飲もう。ね、津美紀」
「うん。これ、すごく美味しいよ」
恵はいつだって五条が言えば突っぱねるくせに、津美紀が乗っかれば尖らせた口をもごもごとさせて小さな声で「勝手にすればいい」と返すのだ。それは今回も同じことで、視線をうろちょろさせた後に「好きにすれば」と小さな声で返した。それに津美紀と一緒に笑えば、恵はますます口を尖らせて腑に落ちない顔をするのだった。
――
微かに懐かしい香りがして五条は瞼を持ち上げた。窓から朝日が差し込んでいるが、部屋に満ちている空気がきんと冷えていて随分と早い時間なのだと知る。1度あくびを零してから布団の中で寝返りをうち、そこで恵の姿がないことにも気付く。昨夜は早い時間から一緒に布団に潜り込んで寝てしまったはずだ。冬場は人の温度が気持ちよくてよく眠れるし、それもあって恵も素直に一緒の布団に入ってくれるのだ。
渋々布団から抜け出し冷たいフローリングに足を下ろす。途端に頭がしゃっきりして、香りの正体に気付く。おそらく恵がいるであろう方向、キッチンの方へと五条は足を進めた。
「早いですね」
「恵こそ…てか珍しいじゃん」
「たまに飲みたくなるんですよ」
そう返す恵の手にはマグカップがあり、話しながらもスプーンをぐるぐるとカップの中で回し続けている。傍らには純ココアが置かれていて、ケトルの中ではお湯が湧いていた。
「それ苦くない?」
「だから美味いんですよ」
お湯で作る純ココアは五条には苦すぎて好みではなかったが、昔から恵はこれしか飲まなかった。五条が小さい恵に買ってきた日からずっと。恵の部屋にも五条の部屋にも冬になると甘いココアと苦い純ココアの袋が並ぶ。
「顔洗ってきてください。その間に用意しとくんで」
「超山盛り3杯ね」
「太りますよ」
言いながらも五条の言う通りの分量でマグカップに用意してくれるのだ。そして昔と変わらず、揃ってココアを練りながら下らない話をする。昔から変わらない、冬になると時折ある冬のワンシーンだった。
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