薄明

ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
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2025年8月30日の投稿1件]

夏の風物詩
これの続きぽくなった


 今や日本の夏はエアコンなしでは過ごせない。窓を開けて扇風機、風鈴の音で涼を感じるなんて時代は既に過去だ。毎年熱中症で運ばれる人は後を絶たず、亡くなる人も多い。連日テレビじゃ暑さ対策をするように呼びかけている。だから休みの日にエアコンの効いた部屋で過ごすのは当然の話なのだ。
 なのだけれど、適温というのは人それぞれだ。
「めぇぐみぃ」
「っさい、何度呼ばれても出ません」
 僕がいるじゃんかぁ、と不満げな声が頭上から聞こえるが全て無視して布団の中で更に丸くなる。適温は人それぞれだが、夏場の五条さんの家は極寒だ。玄関を開けた瞬間からひんやりとした空気に歓迎され、10分も過ごせば熱の籠もった身体が肌寒さを覚え、1時間も過ごす頃には冷たい麦茶ではなく暖かい緑茶が欲しくなる。そうして一晩過ごせばもう布団から出てこれなくなる。少なくとも俺はそうだ。これが適温の人がいるのは分かっているが、俺には寒すぎる。
「僕があっためてあげるって言ってんじゃん」
「いらない。それよりエアコンの温度上げてください」
「夏は冷え冷えの部屋で毛布に包まりながらアイス食べるのが最高なんじゃん!」
「1人でどうぞ。……って、ちょっと!」
 いつまで経っても布団から出てこない俺に痺れを切らした五条さんが、ベッドに乗り上げてきたと思ったら頭から被っていた布団を剥ぎ取られる。途端にひんやりした空気が肌を撫でて鳥肌が立った。寒さから逃げるように身体を縮こまらせると、当然のように隣に寝転んできた五条さんが後ろから腕を回すようにして抱き締めてくる。元々の子供体温か、それとも筋肉量の差か、いつも暖かい五条さんの身体はこんなに極寒の部屋でも変わらず暖かった。真夏にも関わらず寒さに震えて人の温もりに心地良さを感じるなんて。
「あーもう…毎年こんなやりとししてんの不毛すぎる…」
「いい加減諦めなって。夏の風物詩ってやつだよ」
「俺を寒い部屋に放り込むのが?」
「寒い部屋で凍えてる恵を抱き枕にして、アイスを食べるのが」
 毛布はどこに行ったんだ。と思ったが、五条さんはこの部屋の温度なんて大して苦じゃないのだ。長袖のシャツを着ている俺に対して半袖短パンで過ごしているのだから。五条さんが毛布代わりとなって冷え冷えの部屋で凍える俺を抱えながら食べるアイスが美味い、ということだ。
 実をいうとこのやり取りは毎年恒例で、真夏に五条さんのところに泊まると一度はしている定番の押し問答なのだ。最初は扇風機と百円均一の店で買ってきた安い風鈴1つで夏を乗り切っていた俺たち姉弟を見かねて、五条さんがエアコンを買ってきてくれたところから始まり、ある程度の歳になればエアコンを使うのにだってお金がかかることを理解し、必要最低限しか使っていなかった俺たちを更に見かねて「夏といえばクーラーがんがんに効いた部屋でアイス!」と言い出し、それが更に歳を重ねて関係が少し変わったあとも続いている。確かにひんやりした部屋で3人で毛布にくるまりながら食べたアイスは美味しかった。けれどそれももう昔の話。少なくとも今の俺は過ごしやすい温度に整えられた部屋で凍えることも汗もかくこともせずに本を読む方が好きだ。ひんやりしていてもいいが、限度がある。
「段々エスカレートしてません?今年はまじで寒すぎ」
「そう?ちょっとやり過ぎたかな」
「せめて俺が過ごせるくらいにしてくださいよ」
「ん。また来年もこうしてアイス食べようね」
 嫌だとも分かったとも返事を返さなかったが、俺の返答は五条さんには筒抜けだろう。
 その後アイスを持ってくるのを忘れた五条さんが寝室から出て行った時に、こっそりエアコンのリモコンを手に取ったら設定温度が18度になっていて思わず冷房を切った。

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