薄明
ごじょうさとる×ふしぐろめぐみ
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2023年9月6日の投稿[23件](2ページ目)
ひっつき虫in夏
「恵って意外と子供体温だよね」
間延びした声で言った五条は伏黒の腰に回した腕に力を込めた。何もしなくても汗が滲む7月の気温の中で、いくら元々体温が低い人だとはいえこうも密着されては暑くて仕方ない。ぴたりと五条とシャツ越しに触れている伏黒の背中がじっとりと汗ばんでいく。
「暑んいんで離れてください」
「人肌恋しいもん」
「冬に言ってくださいよ」
冬なら良いんだ!と声を弾ませた五条はこれ幸いとばかりに伏黒を丸ごと抱え込むように足まで使って強く抱きしめる。すっぽりと五条の身体の内に収まってしまった身体はもう腕すら動かすのも面倒な程で、溜息を吐き出してから伏黒はどうにか読んでいた本に栞を挟んで閉じた。
「触れ合うってやっぱいいねぇ」
開けた窓から吹き込むぬるい風ではもう足りない程に、隙間なく張り付いた背中と胸は2人分の汗でシャツの色を濃くしていた。
畳む
「恵って意外と子供体温だよね」
間延びした声で言った五条は伏黒の腰に回した腕に力を込めた。何もしなくても汗が滲む7月の気温の中で、いくら元々体温が低い人だとはいえこうも密着されては暑くて仕方ない。ぴたりと五条とシャツ越しに触れている伏黒の背中がじっとりと汗ばんでいく。
「暑んいんで離れてください」
「人肌恋しいもん」
「冬に言ってくださいよ」
冬なら良いんだ!と声を弾ませた五条はこれ幸いとばかりに伏黒を丸ごと抱え込むように足まで使って強く抱きしめる。すっぽりと五条の身体の内に収まってしまった身体はもう腕すら動かすのも面倒な程で、溜息を吐き出してから伏黒はどうにか読んでいた本に栞を挟んで閉じた。
「触れ合うってやっぱいいねぇ」
開けた窓から吹き込むぬるい風ではもう足りない程に、隙間なく張り付いた背中と胸は2人分の汗でシャツの色を濃くしていた。
畳む
歯型
痛そう…(書いたの約3年前)
朝起きて、洗面台に立って初めて自分の身体に起きた惨状に気がついた。恥じらうだとかよりもまず1番に伏黒は引いた。自分の身体に引いたのもそうだが、1番は最早可愛らしいキスマークどころではなく赤黒くなっている鬱血痕やら、どう見ても血が滲むを通り越して瘡蓋になっていたりする歯型を至る所に付けまくった五条に。痛々しいそれは上手いこと全て服の下に隠れるようにはなっているが、それにしたってやりすぎだ。多分背中にも引くほどある。
「おはよー、驚いた?」
「…引きましたね」
「愛の結晶じゃーん」
「もっとまともなものでくださいよ…」
洗面台の前に立ち尽くしていると、少し遅れて起き出した五条がまっさらな傷1つない身体でもって現れた。余計に伏黒の身体が目立って仕方ない。いや、やりすぎだろ。口には出さないが内心で呟いた。
大きくため息を吐き出した伏黒を後ろから抱きしめた五条は、そのまま伏黒の身体を左右に揺らしながら口を尖らせる。
「だーって恵が悠仁と一緒に秋葉原デートするから」
「子供か」
「男は何歳になっても子供なんだよ」
あれはそもそもデートではない。そう言おうと思ったが言ったところで歯型が消える訳でもないので伏黒は口を噤んだ。第一、秋葉原と聞くと思い出したくない記憶があるので考えたくなかった。
ゆらゆらと揺れる視界の中でまっさらな五条の身体がいやに目につく。今の自分の身体と並ぶそれに、むかつかないわけがない。
「…お?なになに、どしたの」
どこか嬉しそうな五条の声を無視して、向き合うように身体を反転させた伏黒は眼前にある五条の鎖骨に顔を寄せた。歯を立てれば骨の硬さを感じる。それでも構わず力を込めれば痛みにか少しだけ五条の肩が震えた。ぶつりと五条の白い皮膚を突き抜ける音がした。少しだけ感じる血の味は、仕事柄どうにも慣れ親しんでしまったものだがやっぱり美味しくはない。
「熱烈だねぇ」
「あんたよりはマシだよ」
やっと口を離せば伏黒のものに比べてまだ色も鮮やかな歯型が一つだけ出来ていた。きっと少しすれば今の伏黒のように濁った色になっていくだろう。
ちょっとだけ気分が晴れた伏黒はもう話は終わりだと再び洗面台に向き合ってまずは顔を洗うべく蛇口を捻った。
「愛、感じちゃうなぁ」
畳む
痛そう…(書いたの約3年前)
朝起きて、洗面台に立って初めて自分の身体に起きた惨状に気がついた。恥じらうだとかよりもまず1番に伏黒は引いた。自分の身体に引いたのもそうだが、1番は最早可愛らしいキスマークどころではなく赤黒くなっている鬱血痕やら、どう見ても血が滲むを通り越して瘡蓋になっていたりする歯型を至る所に付けまくった五条に。痛々しいそれは上手いこと全て服の下に隠れるようにはなっているが、それにしたってやりすぎだ。多分背中にも引くほどある。
「おはよー、驚いた?」
「…引きましたね」
「愛の結晶じゃーん」
「もっとまともなものでくださいよ…」
洗面台の前に立ち尽くしていると、少し遅れて起き出した五条がまっさらな傷1つない身体でもって現れた。余計に伏黒の身体が目立って仕方ない。いや、やりすぎだろ。口には出さないが内心で呟いた。
大きくため息を吐き出した伏黒を後ろから抱きしめた五条は、そのまま伏黒の身体を左右に揺らしながら口を尖らせる。
「だーって恵が悠仁と一緒に秋葉原デートするから」
「子供か」
「男は何歳になっても子供なんだよ」
あれはそもそもデートではない。そう言おうと思ったが言ったところで歯型が消える訳でもないので伏黒は口を噤んだ。第一、秋葉原と聞くと思い出したくない記憶があるので考えたくなかった。
ゆらゆらと揺れる視界の中でまっさらな五条の身体がいやに目につく。今の自分の身体と並ぶそれに、むかつかないわけがない。
「…お?なになに、どしたの」
どこか嬉しそうな五条の声を無視して、向き合うように身体を反転させた伏黒は眼前にある五条の鎖骨に顔を寄せた。歯を立てれば骨の硬さを感じる。それでも構わず力を込めれば痛みにか少しだけ五条の肩が震えた。ぶつりと五条の白い皮膚を突き抜ける音がした。少しだけ感じる血の味は、仕事柄どうにも慣れ親しんでしまったものだがやっぱり美味しくはない。
「熱烈だねぇ」
「あんたよりはマシだよ」
やっと口を離せば伏黒のものに比べてまだ色も鮮やかな歯型が一つだけ出来ていた。きっと少しすれば今の伏黒のように濁った色になっていくだろう。
ちょっとだけ気分が晴れた伏黒はもう話は終わりだと再び洗面台に向き合ってまずは顔を洗うべく蛇口を捻った。
「愛、感じちゃうなぁ」
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弔い
この子供は、人よりよく寂しさというものを分かっている。寂しさというものを分かっていて、それに慣れることも覚えていて、泣いても意味などないことを知っていて、でも忘れることは出来ない。中途半端に背伸びしたきり戻れない子供だった。彼は危ういバランスで成り立っている。
「静かだね」
「…いつも静かですよ、俺は」
言外に、虎杖や釘崎とは違うと滲ませながら伏黒は背後に現れた五条をじとりと睨めつけた。
学生寮の裏庭、あまり人のこない奥まった木の下に伏黒はいた。幼い時から変わらない、簡素で粗末で強い風が吹けば倒れてしまうような弔い方をする。それを可愛らしいと思う反面、優しすぎる程に優しい子だと思う。
「それ、悠仁の?」
指さした先には名前も何も無く地面に突き立てられただけの割り箸が2本あった。ただの割り箸、という辺りがよりちんけに見せるが伏黒の中での精一杯の妥協点なのだろう。ありすぎる優しさは呪術師という仕事において持たないに越したことはないと知っているから。
「2本あるから違うか。大蛇と玉犬?」
伏黒の眉間に寄せられた皺が、深くなる。
「笑いに来たなら帰ってくださいよ」
「別に笑ってないじゃない。恵は優しいねって」
式神など言ってしまえばただの道具でしかない。壊れてしまえば残りを使えばいい。五条が今までに見た事がある術師はどれもそういう人間ばかりだ。最低限の情はないと人ではなくなってしまう、けれどそれ以上の情を持てば呪術師として死しか待っていない。ここはそういう非情な世界だ。
壊れてしまった2匹の式神の為にわざわざ墓などあしらえてやるこの子供を、そこに引き込んでしまったことを後悔したことが1度もないと言えば嘘になるけれど。
「優しくなんかないですよ。優しかったら、…」
そこで言葉を切った伏黒が小さく舌打ちをして五条の脇をすり抜けようと足を進めた。打ち切られた言葉の続きなんて長い付き合いの五条でも分かりやしない。優しさがもたらす寂しさも痛みも、捨てれないのなら慣れなくてはいけないと知っているこの子は一体なにを言いかけたのだろう。聞いたところで答えてはくれないに違いないのだけど。
「泣いてあげてた?」
そのまま通り過ぎて行った伏黒は五条の言葉に返事を返さずに足早に寮の中へと帰っていった。
畳む
この子供は、人よりよく寂しさというものを分かっている。寂しさというものを分かっていて、それに慣れることも覚えていて、泣いても意味などないことを知っていて、でも忘れることは出来ない。中途半端に背伸びしたきり戻れない子供だった。彼は危ういバランスで成り立っている。
「静かだね」
「…いつも静かですよ、俺は」
言外に、虎杖や釘崎とは違うと滲ませながら伏黒は背後に現れた五条をじとりと睨めつけた。
学生寮の裏庭、あまり人のこない奥まった木の下に伏黒はいた。幼い時から変わらない、簡素で粗末で強い風が吹けば倒れてしまうような弔い方をする。それを可愛らしいと思う反面、優しすぎる程に優しい子だと思う。
「それ、悠仁の?」
指さした先には名前も何も無く地面に突き立てられただけの割り箸が2本あった。ただの割り箸、という辺りがよりちんけに見せるが伏黒の中での精一杯の妥協点なのだろう。ありすぎる優しさは呪術師という仕事において持たないに越したことはないと知っているから。
「2本あるから違うか。大蛇と玉犬?」
伏黒の眉間に寄せられた皺が、深くなる。
「笑いに来たなら帰ってくださいよ」
「別に笑ってないじゃない。恵は優しいねって」
式神など言ってしまえばただの道具でしかない。壊れてしまえば残りを使えばいい。五条が今までに見た事がある術師はどれもそういう人間ばかりだ。最低限の情はないと人ではなくなってしまう、けれどそれ以上の情を持てば呪術師として死しか待っていない。ここはそういう非情な世界だ。
壊れてしまった2匹の式神の為にわざわざ墓などあしらえてやるこの子供を、そこに引き込んでしまったことを後悔したことが1度もないと言えば嘘になるけれど。
「優しくなんかないですよ。優しかったら、…」
そこで言葉を切った伏黒が小さく舌打ちをして五条の脇をすり抜けようと足を進めた。打ち切られた言葉の続きなんて長い付き合いの五条でも分かりやしない。優しさがもたらす寂しさも痛みも、捨てれないのなら慣れなくてはいけないと知っているこの子は一体なにを言いかけたのだろう。聞いたところで答えてはくれないに違いないのだけど。
「泣いてあげてた?」
そのまま通り過ぎて行った伏黒は五条の言葉に返事を返さずに足早に寮の中へと帰っていった。
畳む
七海と飲み会
この五条悟という男を同じ人間だと思いたくはないが、しかし間違いなくこの男はただの人間なのだと思う瞬間がある。彼が七海を殺めようと思えば、瞬きの間に自分の身体はひしゃげているだろう。そういう力を持っているが、そんな男も実の所はそこらの人並みに愛だの恋だのに浮かれ慈しむ1人の人間であった。
酒に弱いと本人は言うが、果たしてそれは本当の話だろうか。七海は五条と半ば強制的に呑みに行かされると必ず思う。何もかもが完璧な強さを持つこの男が、酒ひとつにやられる方が違和感だと思えてならないからだ。しかしそれでも数口のサワー如きで目尻を赤く染めた男はふわふわとした口調で言う。「恵ってさぁ」と。
「彼の話、何度目ですか」
「何度だっていいだろ〜!僕は恵の話をしたいんだよ」
彼の酔いについて真偽の程は確かではないが、五条と呑めば会話は大体彼のことになる。といっても一方的に五条が捲し立てる話に適当に相槌を打つだけなのだが、それでも五条は満足するらしい。
「僕と恵の関係なんて犯罪だぞ、七海くらいしか話せないじゃん」
「別に誰でもよかったでしょうに」
彼はそう言うが、実際のところは話し相手など誰でもいいのだ。たまたま数年前に、五条が誰かに伏黒との惚気を話したいと思った時に、運悪く居合わせたのが七海であっただけで。
「…もうお酒は置いておいてください。伏黒くんを呼んでおきますので」
この男も、結局はただの人間であるのだ。付き合っている相手との自慢話をしたくなり、彼が好きなのだと言いながらサイドメニューのバニラアイスを何皿も平らげる程度には。
七海の言葉に五条がまだ早いと口を尖らす。この呑み会は毎回七海が伏黒を呼ぶところでお開きだ。これから呼び出してしまう伏黒には悪いが、これが1番手っ取り早く終わらせる方法なのだ。まだ早いと駄々を捏ねるけれど、伏黒を呼ぶと途端に機嫌が良くなる五条が全ての勘定も済ませてくれる。
「じゃあ来月!また続きやろう」
「お断りします」
畳む
この五条悟という男を同じ人間だと思いたくはないが、しかし間違いなくこの男はただの人間なのだと思う瞬間がある。彼が七海を殺めようと思えば、瞬きの間に自分の身体はひしゃげているだろう。そういう力を持っているが、そんな男も実の所はそこらの人並みに愛だの恋だのに浮かれ慈しむ1人の人間であった。
酒に弱いと本人は言うが、果たしてそれは本当の話だろうか。七海は五条と半ば強制的に呑みに行かされると必ず思う。何もかもが完璧な強さを持つこの男が、酒ひとつにやられる方が違和感だと思えてならないからだ。しかしそれでも数口のサワー如きで目尻を赤く染めた男はふわふわとした口調で言う。「恵ってさぁ」と。
「彼の話、何度目ですか」
「何度だっていいだろ〜!僕は恵の話をしたいんだよ」
彼の酔いについて真偽の程は確かではないが、五条と呑めば会話は大体彼のことになる。といっても一方的に五条が捲し立てる話に適当に相槌を打つだけなのだが、それでも五条は満足するらしい。
「僕と恵の関係なんて犯罪だぞ、七海くらいしか話せないじゃん」
「別に誰でもよかったでしょうに」
彼はそう言うが、実際のところは話し相手など誰でもいいのだ。たまたま数年前に、五条が誰かに伏黒との惚気を話したいと思った時に、運悪く居合わせたのが七海であっただけで。
「…もうお酒は置いておいてください。伏黒くんを呼んでおきますので」
この男も、結局はただの人間であるのだ。付き合っている相手との自慢話をしたくなり、彼が好きなのだと言いながらサイドメニューのバニラアイスを何皿も平らげる程度には。
七海の言葉に五条がまだ早いと口を尖らす。この呑み会は毎回七海が伏黒を呼ぶところでお開きだ。これから呼び出してしまう伏黒には悪いが、これが1番手っ取り早く終わらせる方法なのだ。まだ早いと駄々を捏ねるけれど、伏黒を呼ぶと途端に機嫌が良くなる五条が全ての勘定も済ませてくれる。
「じゃあ来月!また続きやろう」
「お断りします」
畳む
目隠し
「……ちょっと」
「だ〜れだ」
語尾にハートマークが見えるほどに優しく甘く言ってやれば、伏黒はそれに全く靡くことなく苛立った声で五条の手を抓りあげた。といっても伏黒の指先は都合よく五条の手の甲には届かずにいるのだけど。誰だって痛いのは嫌に決まっている。
五条の手のひらでもって覆われた伏黒の顔は、本来なら目元だけを覆われる筈が顔の半分以上が隠されてしまっている。彼が小顔なのか、自分の手が大きすぎるのかは分からないけれど。
「何しょうもないことしてるんですか」
「ほら答えて?だ〜れだ」
手のひらに伏黒の眉間に皺が寄ったのが感じられた。例え背後から手を伸ばしてようが、手のひらで顔を隠していようが、伏黒の表情なんて手に取るように分かる。意外とこの子は分かりやすいのだ。
「…五条先生」
「せいか〜い!」
「答えたんだからさっさと離してくださいよ」
「えっ、やだ」
「は?」
恵は短気だなぁと笑えば、抓るのをやめた手が握り拳になって今度は背後にいる五条の顔へと向かってきた。当たらないと分かってやっているのだろうが、年々伏黒から飛んでくる手は容赦がなくなってきている。信頼の証、とでも言えばそれはそれで気分がいいが。
「恵は優しいなぁ、殴るふりで済ませてくれるなんて」
「っとにムカつくなあんた…」
さて、そういえば何故こうして伏黒に子供みたいな遊びを仕掛けているのかについてだが、ただ単に暇だったのだ。伏黒は任務の報告書を仕上げないといけないから暇ではないのだが、そこは五条には関係ない。暇と退屈は簡単に人を殺すのだ。ついでに報告書の為にノートパソコンと向き合っている伏黒の目が、長いことブルーライトに晒されて少しだけお疲れな気がしたのだった。
畳む
「……ちょっと」
「だ〜れだ」
語尾にハートマークが見えるほどに優しく甘く言ってやれば、伏黒はそれに全く靡くことなく苛立った声で五条の手を抓りあげた。といっても伏黒の指先は都合よく五条の手の甲には届かずにいるのだけど。誰だって痛いのは嫌に決まっている。
五条の手のひらでもって覆われた伏黒の顔は、本来なら目元だけを覆われる筈が顔の半分以上が隠されてしまっている。彼が小顔なのか、自分の手が大きすぎるのかは分からないけれど。
「何しょうもないことしてるんですか」
「ほら答えて?だ〜れだ」
手のひらに伏黒の眉間に皺が寄ったのが感じられた。例え背後から手を伸ばしてようが、手のひらで顔を隠していようが、伏黒の表情なんて手に取るように分かる。意外とこの子は分かりやすいのだ。
「…五条先生」
「せいか〜い!」
「答えたんだからさっさと離してくださいよ」
「えっ、やだ」
「は?」
恵は短気だなぁと笑えば、抓るのをやめた手が握り拳になって今度は背後にいる五条の顔へと向かってきた。当たらないと分かってやっているのだろうが、年々伏黒から飛んでくる手は容赦がなくなってきている。信頼の証、とでも言えばそれはそれで気分がいいが。
「恵は優しいなぁ、殴るふりで済ませてくれるなんて」
「っとにムカつくなあんた…」
さて、そういえば何故こうして伏黒に子供みたいな遊びを仕掛けているのかについてだが、ただ単に暇だったのだ。伏黒は任務の報告書を仕上げないといけないから暇ではないのだが、そこは五条には関係ない。暇と退屈は簡単に人を殺すのだ。ついでに報告書の為にノートパソコンと向き合っている伏黒の目が、長いことブルーライトに晒されて少しだけお疲れな気がしたのだった。
畳む
お風呂
今やすっかり成長して頬の丸さもなくなってしまった伏黒だが、そんな彼にも当然幼い頃はあった。
1度だけ、そんな小さな伏黒に我儘を言って一緒にお風呂に入ったことがある。まだ小学生、それも1年か2年そこらの子供だった伏黒は五条の我儘を突っ撥ねることが出来なかった。それをいい事にちょっとした悪ふざけ半分、普段接することの無い子供への興味半分で持ちかけたのだ。
安くてボロいアパートの浴室は五条の暮らす家と比べたら驚く程狭かった。小さな2人にとってはこれで丁度いいのかもしれないが、五条が入るには随分と窮屈だ。天井だってそう高くなくて、ぐっと手を伸ばしてしまえば届いたかもしれない。
浴室でこれなのだから湯船なんてもっと狭くて、五条が先に浸かれば張られた湯が半分ほど溢れ出た。中で体育座りをした五条の上半身は殆どはみ出てしまったし曲げた膝だって飛び出している。これじゃあ冬場は寒いだろうなと思いながら未だに湯船を前に立ち尽くしている伏黒を手招けば、ずっと小さな口をきゅっと閉じていたのをやっと開いて「どこに入るんだよ」と言ったのだった。
「ここ。乗っかっていいからさ」
体育座りしている膝と身体の隙間を指させば、伏黒はそれはもう嫌な顔をした。未だ警戒心の強い猫のようにそこに立つ姿に1度笑って、腕を伸ばした。狭い浴室では立ち上がらなくてもちょっと頑張って腕を伸ばすだけで簡単に伏黒の身体に手が届く。逃げようとする前に持ち上げて無理やりに五条の身体の前に降ろしてしまえば、それは意外と上手く収まった。幼くて、小さくて、柔らかい背中がどこか緊張した風に強ばって五条の胸に触れる。
五条がちょっと腕に力を込めたら潰れてしまいそうな身体に、持ち上げられた時に咄嗟に縋るように伸ばされた小さな手に、暖かい浴室にいたからかうっすらと赤くなっていた頬に。それらを見て、胸が柔らかく締め付けられる感覚がしたのは何故だろうか。愛しいと、思ってしまったのは何故だろうか。
「なーんて事もあったよね」
「……ないですね」
「いやあったよ」
果たして何年ぶりだろうか、再び五条は伏黒に我儘を言い一緒にお風呂に入ろうと駄々を捏ねた。残念ながらしっかりと断ることが出来るように大きく成長してしまった伏黒は頷いてはくれなかったので、1人で浴室へと向かったのだけど。
五条に合わせた十分に大きな浴室はとてもあのアパートのものとは似ても似つかないが、たった1度のお風呂の思い出を振り返るには十分だった。
「あの頃の恵も、可愛かったよね」
その頃の話をすると彼は眉間に皺を寄せて嫌そうな顔をするのだけど、敢えてその顔を見るのもまた一興というものだ。
畳む
今やすっかり成長して頬の丸さもなくなってしまった伏黒だが、そんな彼にも当然幼い頃はあった。
1度だけ、そんな小さな伏黒に我儘を言って一緒にお風呂に入ったことがある。まだ小学生、それも1年か2年そこらの子供だった伏黒は五条の我儘を突っ撥ねることが出来なかった。それをいい事にちょっとした悪ふざけ半分、普段接することの無い子供への興味半分で持ちかけたのだ。
安くてボロいアパートの浴室は五条の暮らす家と比べたら驚く程狭かった。小さな2人にとってはこれで丁度いいのかもしれないが、五条が入るには随分と窮屈だ。天井だってそう高くなくて、ぐっと手を伸ばしてしまえば届いたかもしれない。
浴室でこれなのだから湯船なんてもっと狭くて、五条が先に浸かれば張られた湯が半分ほど溢れ出た。中で体育座りをした五条の上半身は殆どはみ出てしまったし曲げた膝だって飛び出している。これじゃあ冬場は寒いだろうなと思いながら未だに湯船を前に立ち尽くしている伏黒を手招けば、ずっと小さな口をきゅっと閉じていたのをやっと開いて「どこに入るんだよ」と言ったのだった。
「ここ。乗っかっていいからさ」
体育座りしている膝と身体の隙間を指させば、伏黒はそれはもう嫌な顔をした。未だ警戒心の強い猫のようにそこに立つ姿に1度笑って、腕を伸ばした。狭い浴室では立ち上がらなくてもちょっと頑張って腕を伸ばすだけで簡単に伏黒の身体に手が届く。逃げようとする前に持ち上げて無理やりに五条の身体の前に降ろしてしまえば、それは意外と上手く収まった。幼くて、小さくて、柔らかい背中がどこか緊張した風に強ばって五条の胸に触れる。
五条がちょっと腕に力を込めたら潰れてしまいそうな身体に、持ち上げられた時に咄嗟に縋るように伸ばされた小さな手に、暖かい浴室にいたからかうっすらと赤くなっていた頬に。それらを見て、胸が柔らかく締め付けられる感覚がしたのは何故だろうか。愛しいと、思ってしまったのは何故だろうか。
「なーんて事もあったよね」
「……ないですね」
「いやあったよ」
果たして何年ぶりだろうか、再び五条は伏黒に我儘を言い一緒にお風呂に入ろうと駄々を捏ねた。残念ながらしっかりと断ることが出来るように大きく成長してしまった伏黒は頷いてはくれなかったので、1人で浴室へと向かったのだけど。
五条に合わせた十分に大きな浴室はとてもあのアパートのものとは似ても似つかないが、たった1度のお風呂の思い出を振り返るには十分だった。
「あの頃の恵も、可愛かったよね」
その頃の話をすると彼は眉間に皺を寄せて嫌そうな顔をするのだけど、敢えてその顔を見るのもまた一興というものだ。
畳む
地獄の釜の蓋を開ける作業する(過去小説を順次再掲していく)
2023.09.06 19:37:16 編集
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まだ渋谷終わってなかった頃に書いたやつ
「なにそれ」
そう言って指を向ければ伏黒はなんてことないように「お盆なので」と答えた。大して揃えられてもない食器棚から適当に見繕ってきたであろうグラス。何度か伏黒の部屋に遊びに来ているけれど、見た記憶がないということは棚の奥で埃でも被っていたのかもしれない。そんな古いグラスに若干萎れた彼岸花が挿さっていた。
「そこは菊じゃない?」
「菊って感じじゃないですから。ちょっと不吉なくらいが丁度いい」
「…それ、誰のこと指してる?」
草臥れた彼岸花は買ってきたものではないのか、おざなりに水に差し込まれている茎の根元はちぎったようなあとがあった。真面目そうに見えて意外と雑で大胆なことをするこの子は、どこかで偶然見つけたこれを無断で拝借してきたのかもしれない。花1本毟ってきたところでそれを咎めるような真面目さなんて自分にはないが、背中にひやりとした汗が伝う。
伏黒が白くて細い指で燃えるような花の表面を撫でる。
「父親かもしれない人、ですかね」
あの渋谷で何があったのか、おおよそは伝えられていても全てを把握しているわけではない。五条の知らない所で何かを知ったこの子は、何を見た?
「あ、」
余程死に体だったのか、指に押されて花びらがぽろりと落ちた。
畳む